日本におけるIPOの「独特の壁」
日本ではスタートアップの出口戦略としてIPO(新規株式公開)が重視されてきました。しかし、実際にIPOを目指すと、多くの企業が次のような壁に直面します。
• 厳格かつ長期の審査プロセス
• 上場後も続く四半期ごとの開示負担
• 成長より安定性を重視する審査基準
結果として、日本では「時価総額が小さい段階での上場」が多くなり、ユニコーン級に育つ前に早期IPOを選ぶ企業が目立ちます。これは一見すると資本市場の活発さを示すように見えますが、裏を返せば「M&Aやプライベート市場での成長機会が乏しい」ことを意味しています。
韓国との違い —— 国家主導の成長ストーリー
韓国はKOSDAQ市場を中心に、ベンチャー企業の上場を積極的に支援してきました。特徴的なのは、
• 政府がファンドを通じて資金供給を後押し
• 大企業や公的機関が「最初の顧客」となり、需要を保証
• IPO審査も「成長性重視」で、赤字企業でも将来性を評価
つまり、韓国ではIPOが「ゴール」ではなく「国家戦略の一環」として位置づけられています。そのため韓国発のユニコーンが次々に登場し、海外投資家からも注目を集めやすい環境となっています。
アジア諸国との違い —— 柔軟な資本市場
シンガポールや香港など、アジアの金融ハブはIPOに限らず、SPAC(特別買収目的会社)やデュアルリスティングなど柔軟な資本調達の道を提供しています。これによりスタートアップは、自国市場が小さくても「海外投資家の資金を呼び込む回路」を持てるのです。
一方、日本ではSPAC上場が事実上存在せず、海外上場にも高いハードルが残っています。その結果、国内市場に縛られた資金調達構造から抜け出せない現実があります。
欧米との違い —— 退出(Exit)の多様性
アメリカやヨーロッパでは、IPOは数ある選択肢の一つにすぎません。
• M&Aによる大型買収
• プライベートエクイティによる成長支援
• SPACを通じた迅速な上場
スタートアップにとっては「IPO一択」ではなく、「最も適した出口」を選べる柔軟性があります。特に米国では、赤字でも市場規模と成長性があればNASDAQ上場が可能であり、テスラやAmazonのように「赤字で上場し、上場後に成長で評価を高める」成功事例が定着しています。
日本が抱える本質的な課題
こうして比較すると、日本の課題は明らかです。
- 出口戦略がIPOに偏りすぎている
- 審査が成長性より安定性を重視している
- M&A市場が未成熟で、起業家にとって“売却して次に挑戦する”文化が根付いていない
- 投資家も短期利益を求めがちで、リスクマネーの厚みが不足している
加えて、近年「上場時の時価総額が最低100億円以上でなければならない」という新要件が導入されるのではないか、という噂も出ています。もしこれが現実になれば、時価総額数十億円規模のスタートアップは上場が難しくなり、結果として「早期IPOで資金を確保する」という選択肢さえ閉ざされかねません。これにより、若い企業が資本市場から遠ざかり、さらなる資金調達難に陥るリスクが懸念されます。
これから日本はどうすべきか
では、日本はどう変わるべきでしょうか。具体的には以下のような方向性が必要です。
- 出口戦略の多様化
→ IPO以外に、M&A・PE投資・海外上場といった複線を整備。 - 審査基準の転換
→ 成長性や海外市場への拡張性を重視し、赤字上場も容認。 - M&A市場の育成
→ 税制優遇や買収資金調達の円滑化で、買う側のプレーヤーを増やす。 - 投資資金の厚みを増す
→ 年金基金や政府系資金が、成長株やグロース市場にもっと長期投資する。 - 時価総額基準の柔軟化
→ 「100億円の壁」を一律に設けるのではなく、産業分野や将来性を考慮した柔軟な評価軸を導入する。
まとめ —— 「IPOだけの国」からの脱却を
日本は世界的に見てもIPO件数が多い国です。しかしそれは「成功の証」ではなく、むしろ「他の出口が乏しい証拠」かもしれません。
仮に上場要件がさらに厳格化されれば、挑戦する若手企業の意欲は一層削がれてしまうでしょう。
韓国やシンガポールのように国家戦略で育て、欧米のように多様な資本市場を整えることで、初めて日本のスタートアップは本当の意味でグローバルに競争できる存在となります。
若者が挑戦し続けられる国であるために、いまこそ「IPO一辺倒」かつ「過度な基準」に縛られる文化からの脱却が求められているのです。
【筆者】 編集部スペシャル
INVESTOR PRESS 編集部
資本家 / 政策プランナー / 官民連携スペシャリスト / データサイエンティスト など
