1990年代初頭、日本と韓国の経済規模はまだ歴然とした差があった。1990年の日本のGDPはおよそ3兆円台(名目ドル換算では約3兆円ではなく、3兆ドル規模)、一方韓国はわずか2000億ドル程度。日本はバブル景気の余韻を残す先進国の象徴であり、韓国は“新興工業国”として追いかける立場だった。
しかし、2020年代半ばの現在、その差は「絶対額」では依然日本が上回るものの、「成長率」や「一人当たりGDP」では韓国が急速に肉薄する状況となっている。
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■ 1990年代──失われた成長と追い上げの序章
1991年、日本はバブル崩壊の後遺症に苦しみ始めた。株価と地価の急落、銀行の不良債権問題、デフレ圧力――こうした構造的停滞が“失われた10年”を招いた。一方の韓国は、財閥主導型の輸出志向経済を推し進め、自動車・造船・半導体などで国際競争力を急速に強化。
もっとも1997年のアジア通貨危機で韓国はIMF管理下に置かれ、短期的には成長が急減速したが、逆に構造改革(財閥再編・企業ガバナンス強化・外資開放)が進み、経済の体質強化につながった。
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■ 2000年代──輸出大国の韓国、消費停滞の日本
2000年代、日本はゼロ金利政策と公共投資で景気下支えを図るも、消費者マインドは低迷。ITバブル崩壊やリーマンショックなど外部ショックも重なり、成長率は低水準にとどまった。
一方の韓国は、半導体(サムスン電子)、スマートフォン、液晶パネル、現代・起亜自動車など世界市場でのプレゼンスを拡大。FTA(自由貿易協定)戦略により市場アクセスを広げ、中国・東南アジアとの貿易依存度を高めていった。
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■ 2010年代──成熟と躍進の対照
2010年代の日本は、アベノミクスによる金融緩和・財政出動・成長戦略で一時的に円安効果を享受したが、少子高齢化と人口減少の影響が本格化。内需は縮小傾向を強めた。
韓国は人口規模こそ小さいが、ITと文化(K-POP、映画、ゲーム)のソフトパワーを組み合わせ、国家ブランドを高めた。特に半導体輸出はGDPの約20%を占め、経済全体を牽引する“単一エンジン”として機能した。
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■ 2020年代──逆風と再定義の時代
コロナ禍、米中対立、ウクライナ戦争など不確実性が増す中、日本は円安を背景に輸出産業の収益は改善したが、実質賃金は伸び悩み、家計消費は弱いまま。
韓国も半導体市況の変動、中国依存リスク、若年失業や住宅高騰など構造的課題に直面している。しかし技術投資やグローバルサプライチェーンの再編を機に、新市場開拓へ積極的に動く姿勢が見える。
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■ 30年の数字で見る成長差
• GDP(名目)
• 日本:1990年 約3兆ドル → 2024年 約4.2兆ドル(年平均成長率 約1%弱)
• 韓国:1990年 約2000億ドル → 2024年 約1.8兆ドル(年平均成長率 約5%)
• 一人当たりGDP(PPP換算)
• 日本:1990年代は韓国の約4倍 → 現在はほぼ1.2倍程度まで縮小
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■ 成長格差を生んだ要因
1. 人口動態
• 日本:急速な高齢化・人口減少
• 韓国:少子高齢化は進行中だが、2000年代までは人口ボーナス期
2. 産業構造
• 日本:製造業の空洞化、サービス産業の生産性停滞
• 韓国:特定分野(半導体・IT・造船)で世界シェア確立
3. 政策スタンス
• 日本:金融・財政政策の即効性に乏しく、構造改革も漸進的
• 韓国:危機を契機に大胆な改革と外資導入
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■ 今後の展望
両国とも少子高齢化や地政学リスク、産業転換の必要性に直面している。
日本は「イノベーション×労働市場改革」による潜在成長率引き上げが不可欠であり、韓国は「産業多角化」と「国内市場強化」が課題となる。
30年前は「日本がはるか先を走り、韓国が追いかける」構図だったが、今後は互いに異なる強みを持つ“横並び”の競争関係へと移行する可能性が高い。
【筆者】 編集部スペシャル
INVESTOR PRESS 編集部
資本家 / 政策プランナー / 官民連携スペシャリスト / データサイエンティスト など