近年、韓国の都市部を歩くと、交差点や商店街、公共施設の至るところに高解像度の監視カメラが設置されている光景が当たり前になった。これらは単なる「監視」のためだけではなく、都市全体の安全・利便性を向上させる基盤として進化しつつある。背景には、犯罪抑制という治安面の課題と、スマートシティ構想という都市政策の前進が重なっている。
犯罪抑制への明確な効果
韓国では、2000年代以降、都市部における監視カメラ(CCTV)設置が急速に進んだ。警察庁や自治体の統計によれば、防犯カメラの増設後、特定エリアでのひったくりや暴行など街頭犯罪が顕著に減少した例が多く報告されている。
特に注目すべきは、「抑止効果」だ。潜在的な加害者にとって、行動が常時記録される環境は犯行の心理的ハードルを大きく高める。また、事件発生時には映像が迅速な犯人特定と証拠確保に直結し、解決スピードの向上にも寄与している。
AIとIoTによる「賢い監視」
従来の監視カメラは、ただ映像を撮り続けるだけの存在だった。しかし近年、韓国のスマートシティ計画では、AI(人工知能)とIoT(モノのインターネット)が組み込まれ、監視システムは「リアルタイムで異常を検知する」段階へ進化している。
例えば、夜間に特定エリアで異常な動きや叫び声を検出すると、自動で警察や自治体のモニタリングセンターに通知が送られる。交通事故や火災発生時には、現場映像と位置情報が即座に共有され、救急・消防の到着時間短縮にもつながっている。
プライバシーと安心感のバランス
一方で、監視カメラ網の拡大は「監視社会化」への懸念も伴う。韓国では、個人情報保護法やCCTV運用指針に基づき、録画データの保存期間やアクセス権限を厳格に管理し、プライバシー侵害のリスクを抑える努力が続けられている。
興味深いのは、韓国国民の多くが監視カメラ設置に肯定的である点だ。世論調査によると、多くの人が「犯罪抑止効果による安心感」を重視し、適切な管理を前提に監視強化を支持している。
スマートシティへの布石
監視カメラの進化は、単なる治安維持を超えて、都市全体を「スマート」に変えていく。
交通流量の解析による渋滞解消、災害発生時の避難誘導、観光案内システムとの連動など、映像データは都市運営のあらゆる分野で活用可能だ。ソウル市や仁川市では、既にカメラ映像とビッグデータ分析を組み合わせ、都市計画や環境対策にも役立てている。
未来像──監視から「共感型インフラ」へ
これからのスマートシティでは、監視カメラは「見張る」だけでなく、「守り、助け、つなぐ」インフラとして機能するだろう。犯罪抑制はもちろん、災害時の市民保護や都市の効率化、そして地域コミュニティの信頼醸成にも寄与する。
韓国の事例は、監視技術が適切な制度と透明性の下で運用されれば、都市の安全と利便性を飛躍的に高めることができることを示している。
防犯カメラのレンズの向こうにあるのは、単なる映像ではない。それは、未来の都市をより安全で快適な空間へと導く、デジタル時代の羅針盤なのだ。
【筆者】 編集部スペシャル
INVESTOR PRESS 編集部
資本家 / 政策プランナー / 官民連携スペシャリスト / データサイエンティスト など