2025年5月。世界は「温暖化の次元が変わった」ことを再認識せざるを得ない月となった。南極やヒマラヤの氷河からは、前例のない速度で溶け出す水が観測され、海面上昇の加速が現実の脅威となっている。国連気候変動委員会(IPCC)は、「今後20年以内に主要沿岸都市が水没リスクに直面する可能性がある」と警鐘を鳴らした。
だが、この気候危機の裏側で、地政学的な変化と経済戦略が動き始めている。
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■ 氷河の悲鳴が生む新たな秩序
かつて永久凍土とされた地帯が、いまや未開発資源の宝庫として注目されている。特にグリーンランドやアラスカ、カナダ北部では、鉱物資源・レアアース・メタンハイドレートなどが次々に露出し始め、国際企業や政府による開発競争が激化している。
一方、南半球では氷河の消失によって灌漑や水力発電への依存が脅かされ、ラテンアメリカや南アジアの農業地帯では深刻な水不足と食料不安が顕在化している。
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■ ブラジル:「再エネ強国」から「デジタル誘致国」へ
そうした中、南米最大の国ブラジルは、アマゾン河流域の豊富な水力発電を軸に、「再生可能エネルギー国家」としての存在感を高めている。
2025年5月には、欧州とアジアの複数のテック企業がブラジル北東部にデータセンターを設立する契約を締結。温暖な気候と安価な再エネ供給、土地の広さ、税制優遇措置などが決め手となった。
この動きは、デジタルインフラが「次世代の経済領土」として新たなパワーバランスを形成することを意味している。
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■ アフリカ:「鉱山」から「クラウド」への転換
アフリカ大陸では、スマートフォン普及とともにデータ利用が急拡大している。ナイジェリア、ケニア、南アフリカなどでは、地元政府と国際企業による「デジタル資源戦略」が進行中だ。
この「デジタル資源」とは、単にIT機器ではなく、ユーザーデータ・通信網・地域サーバー・生成AIの学習拠点などを指し、まさに21世紀の「石油」とも呼ばれる。2025年はその爆発的な転換点にあたる年となった。
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■ 気候×テクノロジーが描く未来
氷河の溶解という悲劇の裏側で、新たな覇権ゲームが静かに始まっている。
地球温暖化は単なる環境問題ではない。経済モデルの再構築と地政学的な勢力図の書き換えをもたらす巨大な「変数」である。各国は今、サステナブルな社会を目指すか、それとも資源獲得に走るか──選択を迫られている。
いま問われているのは、持続可能な成長か、気候破綻か。その答えは、氷が溶ける速度よりも速く、行動で示されねばならない。
【筆者】 編集部スペシャル
INVESTOR PRESS 編集部
資本家 / 政策プランナー / 官民連携スペシャリスト / データサイエンティスト など