―脱炭素は“コスト”ではなく“成長戦略”へ
企業の温暖化対策目標を認定する国際機関「SBTi(Science Based Targets initiative)」に参加する日本企業が、2025年10月時点で2000社を超えた。
「約5年間で20倍に増加」「世界全体の17%を占め、国別で最多」――これはもはや一過性のブームではなく、日本の産業構造そのものが“脱炭素を前提とした経営”へと舵を切った証拠だ。
「中小企業が8割を占め、製造業を中心に供給網全体で脱炭素に取り組む動きが活発になっている」
SBTiは単なる環境認証ではない。
「サプライチェーンごと競争力を高める新しい経営基準」として急速に位置づけを変えている。
- SBTiは「投資家の言語」として定着
SBTiが誕生したのは2015年。パリ協定に沿った科学的根拠に基づき、企業の排出削減目標を第三者が認定する仕組みです。
これまでのCSR的な「いいことをしている」アピールとは異なり、SBT認定は投資家が評価可能な“定量的指標”としての信頼性を持つ。
世界的な機関投資家は、もはや「脱炭素への姿勢」ではなく、「科学的根拠に基づくコミットメント」を投資判断に組み込んでいる。
この流れは日本でも加速しており、* サステナビリティ開示の義務化(2026年予定)が追い風となる。
企業にとってSBTiへの参加は、「ESG対応のためのコスト」ではなく、
“資金調達・上場・M&Aにおける必須条件”になりつつある。
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- サプライチェーンが一体で動く時代へ
武田薬品工業が取引先1150社にSBT対応を確認したように、SBTiの本質は「取引構造の変化」にある。
もはや一社が環境対応すればよい時代ではない。
企業間取引において、「SBT対応済みであること」が新たな“信用格付け”のように扱われている。
これまでの競争軸が「価格」から「排出量」へ移り、「環境対応ができない企業は取引から外れる」「金融取引が不利になる」という現実が始まっている。
SBTiはその意味で、企業間ネットワークを再構築する力”を持っている。
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- 中小企業の主役化 ― 79%が担う次の成長軸
記事によると、日本ではSBTi参加企業の79%が中小企業。
この数字は世界平均の約2倍である。
SBTiが導入した小規模事業者向けの簡易認定制度が追い風となり、
人員や資金に限りがある企業でも参加しやすくなった。
中小企業にとってのSBT認定は、
「大企業の下請けから、世界サプライチェーンの正式メンバーへ昇格するチケット」である。
つまり、“ESG認定は下請け脱却のパスポート”なのである。
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- 格差とリスク ― 「グリーンウォッシュ」は命取りに
一方で、電力・ガス・銀行などの参加率は0%と報告されている。
WWFジャパンの羽賀氏はこう警鐘を鳴らす。「認定の取得が遅れるセクターでは国際標準から逸脱した目標設定や対策をしている例も散見され、グリーンウォッシュと批判されるリスクもはらむ」
SBTiへの不参加は、単なる遅れではなく「信頼の欠如」として市場に映る時代になった。企業の信用は、もはやIR資料や財務諸表だけではなく、「科学的脱炭素計画」で測られる。
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- 未来展望:SBTiが“企業価値の新しい物差し”になる
SBTiの世界的な広がりは止まらない。
2025年だけでも、参加企業が1800社増、脱退は約300社にとどまった。
米国では気候懐疑派政権の復活にもかかわらず、164社が新規参加している。
この潮流は明確である。
「政策に左右されない企業の主体的アクション」が始まっている。
SBTiの取得は、環境対応だけでなく、
・投資家との対話力
・金融アクセス
・取引先との信頼関係
・採用ブランディング など
といった経営資産を強化する“複利効果”をもたらす。
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まとめ:SBTiは「地球のため」ではなく「企業のため」の認定へ
SBTiへの参加は、もはや「環境貢献」ではなく「生存戦略」である。
脱炭素時代の企業価値は、“どれだけ削減できるか”ではなく、“どれだけ科学的に約束できるか”で決まる。
この認定は、企業の未来を測る「新しい信用通貨」になるであろう。
だからこそ、経営者が問われているのは
「SBTiを取得」そして「SBTiを活かしてどんな未来を創るか」である。
【筆者】 編集部スペシャル
INVESTOR PRESS 編集部
資本家 / 政策プランナー / 官民連携スペシャリスト / データサイエンティスト など
