2025年4月2日、ドナルド・トランプ米大統領が突如発表した「Liberation Day(解放の日)」──その意味するところは、米国がすべての主要貿易相手国に対して一方的に関税を引き上げるという、極めて攻撃的な通商政策の実行宣言であった。
「米国製品を守る」として再選後のトランプ政権が強く打ち出してきた“経済ナショナリズム”は、この日を境に一線を越えた。かつての「アメリカ・ファースト」は経済安全保障の名の下で形を変え、あらゆる輸入品に高率な関税を課すという“現代の壁”を築いたのである。
■ 株式市場が即時反応──「自由貿易への不信」が招いた動揺
発表の翌日から、米国をはじめ世界の株式市場は激しく動揺した。S&P500は1週間で12%、ナスダックは14%、ダウ工業株30種平均も11%を超える下落を記録。これは2020年のコロナ・ショック以来最大の調整幅となった。
原因は明確だ。グローバル企業の多くは複雑なサプライチェーンの上に成り立っており、関税は製造コストの上昇と消費者価格の高騰をもたらす。しかも、相手国の報復関税が予想される中で、企業収益の先行きには不確実性が増すばかり。市場が“未来への見通し”を失ったことが、これほどの急落につながった。
■ 貿易黒字よりも政治的勝利を優先?
今回の動きは、経済合理性というよりも政治的メッセージ色が強い。「Liberation Day」は、トランプ氏が支持層に向けて打ち出した象徴的な“勝利宣言”でもある。国内製造業や農業団体への短期的なアピールにはなるかもしれないが、長期的には輸出企業や消費者への打撃は避けられない。
このような保護主義政策は、同盟国との関係をも冷え込ませるリスクをはらんでいる。EUや日本、カナダ、そして最大の貿易相手である中国は即座に反発し、相応の報復措置を示唆した。経済が「分断」に向かう兆しが、現実味を帯び始めた。
■ IMFと市場が警鐘──“第二の通商戦争”の可能性
4月24日に開催されたIMF春季会合では、専務理事のクリスタリナ・ゲオルギエバ氏が「グローバルな貿易秩序の崩壊につながりかねない」と強い懸念を表明。世界の経済成長率見通しは下方修正され、貿易量は年内に最大8%減少する可能性があるとされた。
まさに、現代の「通商戦争」が再び始まろうとしている。しかも今回は、交渉の余地を削るような一方的な政策変更であり、国際協調が成り立たない状況が続けば、WTO体制そのものの信頼性にも疑問符が付く。
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■ 経済ナショナリズムの終着点
「自国優先」は容易に支持を集めるスローガンである。しかしその代償は、グローバル経済の中で築かれてきた信用・秩序・連携の損失にほかならない。2025年の“Liberation Day”は、自由貿易の理念とその果実を見直す契機ともなり得るが、そのためには感情論や政治的アピールを超えた、冷静な国際対話と経済的リアリズムが必要だ。
今、世界は問われている。「自由な経済」は誰の手によって守られるべきなのか──その答えは、すでに市場の動きが語り始めている。
【筆者】 編集部スペシャル
INVESTOR PRESS 編集部
資本家 / 政策プランナー / 官民連携スペシャリスト / データサイエンティスト など